いす式階段昇降機には、大きく分けて「直線型」と「曲線型」があります。
分かりやすく説明するために「直線階段用」「曲がり階段用」と表現される場合もありますが、直線階段に曲線型の昇降機を使用する場合もあります。
直線型と曲線型とでは何が違うのでしょうか。これらの違いを解説します。
違いは「レール」を曲げられるかどうか
いす式階段昇降機の「直線型」と「曲線型」の違いは、階段の形状とは関係なく、レールの形状の違いと考えると分かりやすいでしょう。
詳しくは後述しますが階段が直線であっても、曲線型の昇降機を選ぶケースもあります。間取りやご利用者様のお身体の状態、使い勝手などによって、どちらを採用するかを検討します。
また、直線階段でも途中に踊り場がある場合には曲線型を選択します。
直線型の特徴と注意点
比較的コンパクトな機種が多い
一般的に直線型の昇降機は、曲線型と比べると、レール出幅・本体ともにサイズが小さめです。幅の狭い階段にも取付可能です。また、同居のご家族様が階段を通行されるときにも小さい方が邪魔になりにくいでしょう。
上階ではイスを回転させて乗り降りする
直線型の昇降機は、上の階では本体(イス部分)が階段の上で停止します。レールを曲げられないため、上階の床面まで乗り上げることができないのです。従って、上の階で乗り降りする際には、イスを回転させる必要があります。安全上、回転させずに乗り降りすることは推奨されません。
上の写真はイスの回転イメージです。(写真は株式会社スギヤスのカタログより引用。)
このとき、イスの回転動作は、通常は手動で行います。(※)
常に介助者が付く場合には問題ないと思われますが、ご利用者様がお一人で使用される場合には、イスに座ったままご自身で回転動作ができるかどうか、よく検討する必要があります。
(※)メーカー・機種によっては電動で回転します。また、オプション対応で電動にできる製品もあります。
イスの回転動作を省きたい場合には、上の階までレールを伸ばし、床面まで本体を乗り上げるように設計します。この場合には曲線型の昇降機を採用します。
また、補足事項として、イスの回転機能は多くの機種では上の階でのみ可能です。下の階では回転できない機種が多いのでご留意ください。(一部、可能な機種もあります。)
介助者の通り抜けスペースを考慮する必要がある
昇降機の乗り降り(立ち座り)に介助が必要な方は、介助者が階段の脇を通り抜けられるだけの通路幅が必要になります。
例えば、下の階で介助されながら昇降機に乗り、上の階へ移動したとします。このとき、介助者は昇降機の後ろをついていくような格好になり、上階側には介助者不在の状態が発生します。介助者が1名しかいない場合には、ご利用者様が昇降機に座っている状態で、その昇降機の横を介助者がすり抜けなければなりません。これには相当の階段幅が必要になります。
介助者の通行が難しい場合には、曲線型を使用して廊下の幅の広い場所までレールを伸ばすなど、代案を検討する必要があるでしょう。
同居のご家族様の通行について
階段昇降機を設置すると、その分、どうしても通路が狭くなります。同居のご家族様が階段を通行する際に安全に通行できるかどうかについても考えておいたほうが無難です。
昇降機は使わないとき、折りたたんでおくことができます。折りたたんだときの壁からの出幅は、業界最小のものでも約24cmあります。実際に設置してみると「意外と大きい」という感想を持たれる方が多いです。
一般的な木造住宅で階段幅が75cmとすると、昇降機を設置したときの有効幅は51cmになります。手すりを含めるとさらに狭くなります。
階段の前後に廊下などのスペースがあるのであれば、曲線型の昇降機を選択して廊下までレールを伸ばす、といったことを考えても良いでしょう。
曲線型の特徴と注意点
比較的自由な設計が可能
曲線型は、レールを曲げられるため、比較的自由なレイアウトで設計することが可能です。階段だけでなく廊下(水平部分)までレールを伸ばす等の対応も可能です。
機械のサイズが大きい
曲線型の昇降機は、一般的にレール・本体ともに直線型よりも一回り大きいサイズになります。階段幅が狭い場合には、ひざと壁とのすき間が確保できるか等、よく確認しましょう。
海外メーカーの1本レールの昇降機では、イスの角度を変えて昇降する機能も
レールの角度や曲げ半径などの限界はメーカーによって異なる
曲線型の昇降機は、メーカー・機種によってそれぞれ得意・不得意があります。対応可能な角度やレールの曲げ半径などの設計限界が異なりますので、メーカーによって、対応できる階段と、できない階段があります。
階段昇降機の見積や現場調査などを依頼する際、複数のメーカーを取り扱っている販売店に依頼するとスムーズです。
価格の違いは?
直線型と曲線型では価格が大きく異なります。
メーカーや機種、階段の長さにもよりますが、屋内用の直線型では60~70万円程度になる場合が多いです。
一方、曲線型は120万円以上になります。もっとも曲線型の価格はレールレイアウトによって大きく異なり、200万円を超える場合もあります。
施工店のウェブサイトやカタログなどに記載されている価格は、本体価格のみの場合と、工事費なども込みの場合があります。
また、税抜き表記の場合と、税込み表記の場合もあります。
比較検討の際はよく確認して下さいね。
価格は直線型の方が抑えられますが、ご利用者様のお身体の状態などによっては直線階段でも曲線型が必要な場合がありますので、価格だけでなく総合的によく検討することが大切です。
納期の違いは?
納期に関しては、直線型の方が早いと言えます。国内メーカーでは注文から通常3週間程度で出荷されます。
一方、曲線型は、階段形状に合わせてオーダーメイドになるため、まず設計のための期間を要します。メーカーで設計し、図面が作成されます。これに1週間以上かかる場合があります。その図面の内容でよろしければ、ご注文ください。その後、製作に取り掛かります。国内メーカーでは、オーダーメイドでレールを1本1本曲げたり切ったりして製作します。通常、製作開始から1.5ヶ月〜2ヶ月程度かかります。
(※2020年10月現在、国内各メーカーとも受注が集中しており、納期が大幅に遅れています。)
なお、海外メーカーで、オットーリフト社の「モジュールエアー」は、様々な形のレール部品をあらかじめ在庫しており、曲線型でありながら通常3週間程度の短納期を実現しています。(海外からの輸入になるため、納期は変動することも考えられます。)