寒い冬になると「ヒートショック」という言葉をよく聞くようになりませんか?
急激な温度差によって血圧や脈拍が大きく変動し、湿疹や心筋梗塞などを引き起こすことがあります。
特に高齢者にとっては冬の入浴中の事故の多くがヒートショックによるもので、命に関わることも多々あります。
暖かい浴室でのひとときが、思わぬ危険と隣り合わせにならないようにするにはどうすればいいでしょうか。
この記事では、ヒートショックの原因や起こりやすいタイミング、今日からできる予防対策をわかりやすく解説します。
ご自身やご家族の健康を守るために、ぜひ冬の入浴前にチェックしておきましょう。

ヒートショックとは?冬の入浴で起こる「温度差の危険」

ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧や脈拍が大きく変動し、失神・心筋梗塞・脳卒中などを引き起こす現象のことです。
冬の寒い日、冷えた脱衣所から熱いお風呂に入ると、身体が「ホッ」と温まるように感じます。
しかし、この急激な温度変化こそがヒートショックの原因です。

高齢者は特に注意が必要です。
厚生労働省の「人口動態調査」によると、64歳以上の「溺死・溺水」の約8割が浴槽での事故であり、中でも家や居住施設内の浴槽での事故が約9割を占めています。

また、東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」によると、令和3年中の高齢者の溺れる事故による月別救急搬送人員では、11月から2月までの冬場に多く搬送されています。
ヒートショックは、一見、健康そうに見える人でも、体調や環境によっては突然意識を失うことがあります。
「自分は大丈夫」と思わず、家の中の温度差を減らす対策を意識することが大切です。
ヒートショックが起こりやすいタイミング

上述の通り、ヒートショックが最も多く起こるのは入浴時です。
冬の脱衣所や浴室は室温が低く、服を脱いで身体が冷えた状態で熱い湯に入ると、血圧が急上昇します。
さらに、湯船から立ち上がると血圧が急激に下がり、めまいや失神、意識喪失などの症状を引き起こすことがあります。
特に高齢者や持病のある方は、この血圧変動に身体がついていけず、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な事故につながる可能性があります。
また、ヒートショックはお風呂だけでなく、家の中の温度差でも起こります。
暖房の聞いたリビングから、暖房のない廊下・トイレ・脱衣所への移動などにも、身体は急な寒暖差にさらされます。
室内の温度差が10℃以上になる環境では、血管が収縮し、血圧の変動が大きくなるため注意が必要です。
特に冬の朝や夜間など、外気温が低い時間帯はリスクが高まります。
健康法として人気の「サウナ→水風呂→外気浴」という交互浴も、ヒートショックを引き起こす原因となります。
高温のサウナから急に冷たい水風呂に入ることで、心臓や脳に強い負担がかかります。
交互浴を行う場合は、始めは温度差を緩やかにし、身体を慣らしながら行うようにしましょう。
ヒートショックの主な症状
ここからは、ヒートショックで見られる代表的な症状を紹介します。
めまい・立ち眩み
急な血圧の変動によって脳への血流が一時的に減少し、めまいや立ち眩みがおこります。
「ふらつく」「目の前が暗くなる」などの症状は、ヒートショックの初期サインです。
軽視せず、すぐに座る・入浴を中止するなど、安全な体勢をとりましょう。
失神
血圧が急激に下がると、脳への酸素供給が追い付かず、意識を失うことがあります。
浴室内で倒れると溺れてしまう危険もあり、ヒートショックの事故の多くがこの段階で発生しています。
心筋梗塞
血圧の急上昇や下降による心臓への負担から、冠動脈が詰まり心筋梗塞を引き起こすことがあります。
胸の痛み、圧迫感、息苦しさなどを感じた場合は、すぐに入浴をやめ、救急要請が必要です。
特に高血圧・糖尿病などの既往歴がある方は、冬の入浴に注意しましょう。
不整脈
急激な温度差による自律神経の乱れや血圧変動で、心臓のリズムが乱れることがあります。
動悸や息切れ、胸の違和感などの症状がある場合は、ヒートショックのサインとして警戒が必要です。
脳梗塞
寒暖差によって血管が収縮し、血流が悪くなると脳の血管が詰まり、脳梗塞を引き起こすことがあります。
片側の手足が動かしにくい、言葉が出にくいなどの症状は要注意です。
すぐに身体を温めなおしたりせず、救急車を呼ぶことが最優先になります。
どんな人がヒートショックになりやすい?

ヒートショックは誰にでも起こる可能性がありますが、年齢や身体の状態、生活習慣によってリスクが高くなる人がいます。
ここでは、特に注意が必要な方の特徴を紹介します。
高齢者
年を重ねると、体温を調節する機能や血圧を安定させる力が弱まり、急な温度変化に対応しにくくなります。
そのため、高齢者はヒートショックの影響を最も受けやすい層といえます。
寒さを感じにくくなっていることも多く、無意識のうちに危険な温度差にさらされてしまうこともあります。
高血圧の方
高血圧の方は、血管に常に負担がかかっており、急激な血圧変化が起きると血管が破れたり、詰まったりするリスクが高まります。
血圧の薬を服用している場合も、薬の作用で血圧が下がりやすくなるため注意が必要です。
生活習慣病の持病がある方
糖尿病・動脈硬化・肥満・睡眠時無呼吸症候群などの持病がある方は、血管や心臓への負担が大きいため、ヒートショックの危険性が高まります。
特に糖尿病の方は神経障害によって体温調節が鈍くなり、寒暖差に気づきにくいことがあります。
一番風呂が好きな方
冬の一番風呂は浴室がまだ冷えており、室温と湯温の差が大きくなりやすい状態です。
気持ちよく感じても、実はヒートショックの危険が最も高いタイミングです。
入浴前に浴室を温める、シャワーで壁や床を温めるなどの対策をとりましょう。
熱い風呂が好きな方
42℃以上の熱いお湯は、血圧の上昇を一気に招きます。
特に長湯をすることで心臓に負担がかかり、失神や不整脈を起こすこともあります。
入浴温度は38~40℃を目安にするのが安全です。
帰宅直後などに身体が冷えている状態で入浴する方
外出から帰ってすぐや、寒い場所で過ごした後は、体温が下がり血管が収縮しています。
この状態で熱い湯に入ると、血圧が急上昇しやすくヒートショックの危険が高まるため、少し休んだり身体を温めてから入浴することが大切です。
食事後・飲酒後・薬の服用後に入浴する方
食後や飲酒後は血流が胃や肝臓に集中し、血圧が下がりやすくなります。
また、薬によっては血管の拡張作用があるため、入浴による温度変化でさらに血圧が下がる危険があります。
これらのタイミングでの入浴は避け、少し時間をおくのが安全です。
水分補給が足りていない方
脱水状態では血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。
ヒートショックによる脳梗塞や心筋梗塞を防ぐためにも、入浴前後のこまめな水分補給が大切です。
冷たい水ではなく、常温の水や白湯を少しずつとるのがおすすめです。
ヒートショックは「冷えた身体」「急な温度差」「血圧の変動」が重なると発生しやすくなります。
普段の入浴習慣を少し見直すだけでも、危険を大きく減らすことができます。
今日からできるヒートショック対策
ヒートショックは、住まいの環境と、ちょっとした工夫でリスクを大きく下げることができます。
ここからは、今日からすぐに実践できる対策を紹介します。
入浴前に脱衣所や浴室の寒暖差を少なくする

ヒートショックの最大の原因は、温度差です。
冬の住宅では、暖房の聞いたリビングや湯船のお湯、暖房のない脱衣所・浴室・トイレとの温度差が10℃以上になることも珍しくありません。
この差が血圧変動を招き、高齢者にとっては命に関わるリスクとなります。
そのため、「住まいの温度を整えること」が最も効果的なヒートショック対策です。
浴室暖房乾燥機で「入浴前から暖かい」環境をつくる

浴室暖房乾燥機は、ボタン一つで浴室全体を均一に暖められる設備です。
入浴の10~15分前に暖房モードを作動させておくことで、浴室内の温度を20℃前後に保ち、寒暖差を大きく減らせます。
また、入浴後の乾燥機能を使えばカビや湿気対策にもなり、ヒートショック予防と衛生面の両立が可能です。
最近では、壁掛けタイプ・天井埋め込みタイプなど、多様な製品があり、既存住宅へのリフォームでも導入しやすくなっています。
【設置のポイント】
- 天井埋め込み型:見た目がすっきりし、浴室全体を効率的に暖められる
- 壁掛け型:配線・配管の負担が少なく、リフォームで取り入れやすい
- 暖房出力は浴室サイズに合わせて選定する
小型ヒーターで脱衣所を効率よく暖める

脱衣所は、家の中でも特に温度が下がりやすい場所です。
暖房の効いたリビングから冷えた脱衣所に移動すると、その温度差がヒートショックの大きな原因になります。
入浴前に小型ヒーターで脱衣所を暖めておくことで、身体の負担を減らし、安心して入浴できる環境を整えられます。
最新の小型ヒーターは、人感センサーやタイマー機能が付いたタイプも多く、必要な時だけ自動で運転・停止してくれるため、省エネ性にも優れています。
またスイッチを入れてすぐに温風がでる即暖タイプなら、短時間でもしっかり暖まります。
小型ヒーターには床置き・壁掛けの2種類がありますが、高齢者のいるご家庭には壁掛けタイプがおすすめです。
脱衣所は洗濯機や棚、洗濯カゴなど物が多くなりやすい場所のため、床にヒーターを置くと、足元が狭くなったり、うっかり倒したり、転倒したりする危険があります。
一方で、壁掛けタイプなら床を広く使えるだけでなく、倒れる心配がなく安全です。
施工も比較的簡単で、壁面に専用ブラケットを固定するだけで設置可能なモデルが主流です。
後付けリフォームにも対応できるため、既存住宅でも導入しやすいのが魅力です。
かけ湯をする
冷えた身体でいきなりお湯に入ると、血圧が急激に上昇し、ヒートショックの危険が高まります。
入浴前には、心臓から遠い手足から順にぬるめのお湯をかけて、身体をお湯の温度に慣らすことが大切です。
首や胸のあたりまでゆっくり温めることで、身体が自然にリラックスし、血圧の変動を和らげることができます。
お湯は41℃以下、つかる時間は10分程度に
熱いお湯は気持ちよく感じても、身体への負担が大きくなります。
お湯の温度は38~40℃を目安にし、長時間の入浴は避けましょう。
お湯につかる時間は10分程度が理想です。
身体を温めたいときは、肩までつかるのではなく半身浴にして、額に汗が出る前に上がるのがポイントです。
身体が温まりすぎると血管が拡張しすぎて、湯上がりに血圧が急降下する危険があります。
浴槽から立ち上がるときは、つかまってゆっくり
湯船から立ち上がる瞬間は、ヒートショックが起こりやすいタイミングです。
お湯に浸かっていたからだが急に冷たい空気に触れることで、血圧が一気に変動します。
浴槽のフチや手すりをしっかりつかみ、ゆっくり立ち上がるように心がけましょう。
浴室内に手すりを設置するリフォームも、転倒防止や安全確保のために有効です。
入浴は家族にひと声かける・家族は動向に注意する
一人での入浴中は、万が一体調を崩しても発見が遅れがちです。
入浴の前に「これからお風呂に入るね」と家族にひと声かける習慣をつけておきましょう。
家族も「長く出てこない」「物音がしない」と感じたら、早めに声をかけることが大切です。
こんな時は入浴を控えましょう

体調が悪いとき
風邪や疲労、睡眠不足などで体調がすぐれない日は、入浴を控えましょう。
身体が弱っている時は血圧のコントロールが難しく、血圧の乱降下でのダメージを受けやすくなります。
食後・飲酒後
食後は消化のために血流が胃腸に集中し、血圧が下がりやすい状態になります。
また飲酒後は血管が拡張して体温調節が乱れ、意識を失う危険があります。
入浴は食後30分~1時間以上、飲酒をした日はシャワーにしたり、2~3時間空けるなど、慎重な判断が必要です。
医薬品(血圧降下剤、精神安定剤・睡眠剤など)の服用直後
薬の種類によっては、血圧や心拍数に影響を与えるものがあります。
特に精神安定剤や睡眠薬を服用した直後は、意識がもうろうとしたり、立ち眩みを起こすことがあるため、入浴は控えましょう。
ヒートショックは、入浴時だけでなく、家の中の寒暖差があるあらゆる場所で起こりうる現象です。
暖房の効いたリビングから冷えた廊下やトイレ、脱衣所に移動するだけでも、血圧が大きく変動し、身体に強い負担がかかります。
特に高齢者や、高血圧・糖尿病などの持病がある方には、少しの温度差でも血圧が乱れやすく、思わぬ事故につながることがあります。
冬を安全に過ごすためには「身体を守る」と同時に「住まいを整える」という視点が大切です。


