玄関やアプローチにあるわずかな段差は、車いすで暮らす方の外出を阻む大きな壁となります。
「介助がないと外に出られない」という状況を変えたいと考えている方も多いのではないでしょうか。
もし自分の力で外出や帰宅が安心して行うことができれば、社会とのつながりが増え、豊かに暮らすための第一歩となります。
この記事では、玄関やアプローチの段差を解消する手段である「外構スロープ」と「段差解消機」について、それぞれのメリット・デメリットや選び方をわかりやすく紹介します。
外構の段差解消の方法は大きく2種類
車いすで通行するために、玄関やアプローチにある段差を解消する方法は、大きく分けて「外構スロープ」と「段差解消機」の2種類です。
スロープは、段差に対して緩やかな傾斜を作ることで移動を可能にする方法です。
常設タイプのコンクリートスロープから、アルミ製の可搬式スロープまで幅広く使われています。今回はその中でも常設タイプの外構スロープを扱います。
段差解消機は、車いすに乗ったまま上下できる電動リフトのような設備です。設置すれば、高低差が大きい場所でも、ボタン一つで通行できます。
この2つの方法の特徴を理解し、自宅や利用環境にあった方法を検討していくことが、快適な外出の第一歩となります。
番外:いす式階段昇降機・車いす用階段昇降機
スロープや段差解消機以外にも、段差や高低差を解消するための方法として階段昇降機があります。
いす式階段昇降機
いす式階段昇降機は、階段にレールを設置し、いすに座って上下階を移動する装置です。
車いすからいすに移乗する必要がありますが、狭い階段でも設置できる点が特徴です。高齢の方の住宅リフォームで導入されることが多く、比較的コンパクトに設置できます。
ただし、車いす利用前提の場合、車いす⇔昇降機への移乗に加え、車いす本体をどうやって段差の上階下階に移動させるかという課題があります。
例えば、階段の上階下階で別の車いすに乗り換える、介助者が車いすを運ぶ、といった工夫が必要になります。
こうした問題を解決できる場合には、いす式階段昇降機も段差解消の選択肢のひとつとなります。


車いす用階段昇降機
車いす用階段昇降機は、階段にレールを設置し、車いすごと乗り込んで昇降する装置です。
専用の昇降台がレールに沿って動く仕組みで、移乗の手間がないため安心して利用できます。
ただし、設置には階段幅や昇降台に乗り降りするスペースの確保といった条件が求められます。十分な広さを確保する必要があるため、個人宅よりも公共施設や商業施設で導入が多く、一般住宅では設置が難しい場合が少なくありません。
スロープのメリット・デメリット
車いすでの外出や帰宅をスムーズにするために、もっとも身近な段差解消の方法として選ばれるのがスロープです。
電気を使わずにシンプルに段差を解消できるため、比較的導入しやすい方法といえます。
スロープのメリット
スロープのメリットは以下の通りです。
- 費用を抑えやすい
- シンプルで壊れにくい
- 外構に合わせた仕上げができる
スロープは比較的低コストで導入できるのが大きな魅力です。
段差解消機と比べてシンプルなつくりのため、メンテナンスの手間も少なく済みます。
外構スロープの素材には、コンクリートやウッドデッキ、タイルなどがあり、利用環境や外構のデザインに合わせて仕上げを選べるのも特徴です。
住まいの雰囲気に調和させやすく、実用性だけでなく見た目にも配慮できます。
スロープの素材について詳しく知りたい方は、以下のリンクからご覧ください。

スロープのデメリット
スロープのデメリットは以下の通りです。
- 設置スペースの広さが必要
スロープは、段差を解消するのに長さを確保する必要があります。
一般的に、段差10cmに対して、約120cm(勾配1/12程度)の長さが必要とされるため、段差が高いほど設置に大きなスペースをとります。
スロープの上端や下端には、車いすが安全に停止できる水平なスペースも必要です。
また、スロープをL字型やU字型に折り曲げて設置する場合には、曲がり角ごとに車いすが方向転換できる広さを確保しなければなりません。
以上の理由で、玄関前が狭い場合や、高低差が大きい場合には、設置が難しい場合があります。
段差解消機のメリット・デメリット
段差解消機は上述の通り、車いすに乗ったまま上下に移動できる電動式のリフトです。
高低差が大きい場所やスロープを設置するだけのスペースが確保できない場合に有効な方法です。
段差解消機のメリット
段差解消機のメリットは以下の通りです。
- スロープと比べてスペースを取らずに設置できる
- 大きな段差にも対応できる
- ボタン操作で昇降するため、上下移動の負担が軽い
スロープに比べて設置面積が少なく済むため、玄関前のスペースが限られている場合にも導入できます。
50cmを超えるような段差など、スロープでは対応が難しい高さでも安全に昇降できるのが大きな特徴です。
さらに、ボタンを押すだけで昇降できるため、スロープと比べて上下移動の負担を軽くできます。
段差解消機のデメリット
段差解消機のデメリットは以下の通りです。
- 費用が高い
- 定期的なメンテナンスが必要
段差解消機はスロープと比べ、本体価格や電源確保のための電気工事の分、費用が高くなる傾向があります。
また、電動機器のため、専門家による定期的な点検が欠かせず、維持費がかかります。故障の際の修理費も含め、維持費が必要になる点は注意が必要です。
スペースに余裕があるならスロープ、限られているなら段差解消機
比較ポイント | 外構スロープ | 段差解消機 |
---|---|---|
設置スペース | 段差10cmにつき約120cmの長さが必要。 (勾配1/12程度) 設置環境により踊り場も確保が必要。 |
昇降台と乗り降りのスペースがあればOK。 省スペースで設置可能。 |
費用 | 数万円~数十万円程度。 設置面積や素材により、大幅に変動する。 |
百万~数百万円程度。 本体価格+設置工事で高額になりやすい。 |
操作性 | 勾配のある場所を車いすで昇降するため、 多少の労力は必要。 |
ボタン操作で電動で昇降するため、 スロープに比べて省力で上り下りできる。 |
維持管理 | 路面の掃除など簡単な手入れでOK。 | 専門家による定期的な点検・修理が必要 |
スロープと段差解消機を比べると、最も大きな判断の分かれ道は設置に必要なスペースの広さです。
スロープは段差10cmにつき約120cmの長さが必要で、さらに踊り場や方向転換のスペースも確保する必要があります。
十分な敷地やアプローチの広さがある場合は、費用を抑えてシンプルに段差を解消できるスロープが適しています。
一方、限られた敷地や玄関前などで長いスロープを設けるのが難しい場合は、段差解消機が有効です。
昇降台と乗り降りのスペースさえあれば設置できるため、省スペースで大きな段差にも対応できます。
番外:スペース不足なら、玄関以外からの動線づくりを考える
玄関前の段差解消の手段がどうしてもみつからない場合、無理に玄関にこだわる必要はありません。
敷地が狭くスロープの長さを確保できなかったり、段差解消機を設置するスペースがなかったりするケースも実際にあります。
そのようなときは、庭や裏口、勝手口など別の入口を新たな出入口として整備する方法も検討してみてはいかがでしょうか。
玄関に変わる「第二の玄関」をつくることで、より現実的で安全な段差解消が実現できるかもしれません。
大切なのは「玄関から出ること」ではなく、安心して外出・帰宅できるルートを確保することです。暮らしに合わせて柔軟に発想を切り替えることが、快適な住まいづくりにつながります。
掃き出し窓を第二の玄関へ。スロープを設置した施工事例①
車いす利用では家へ出入りできず、しかし玄関前のスペースが取れずに困っていらっしゃた方がこの施工事例のお客様です。
庭にウッドデッキのスロープを作り、道路から直接庭に入れる門を設置して「第二の玄関」を作成しました。
アルカリ性のコンクリートスロープではなく、ウッドデッキを採用したことで、庭の芝生もスロープに影響されずに育ちます。
スロープの反対側には階段も設置しており、車いす利用以外でも使いやすく配慮しました。
シンプルなつくりで庭の景観を損なわずに、車いすで家に出入りできるようになりました。
リビングの掃き出し窓を第二の玄関へ。段差解消機を設置した施工事例②

https://tri-angle-rehome.com/archives/4645
リハビリからご自宅に戻る際に、現状のお住まいのままでは生活が難しいと感じた方が、この施工事例のお客様です。
ご利用者様は車いすでの生活が始まり、寝室を1階に移すことを決断し、行動範囲に合わせ、住まいの1階を車いす利用を前提にしたバリアフリー仕様に改修しました。
既存の玄関はそのまま残し、裏手にあるウッドデッキを経由して掃き出し窓から家の出入りをする計画を立て、1階の畳の部屋は車いすで移動しやすいようにフローリングに変更しています。
関連リンク
https://tri-angle-rehome.com/archives/4645
1階駐車場・2階住居のお住まいで、出入り口までをスロープとエレベーターでつないだ施工事例③
ご利用者様は、神奈川県相模原市にお住まいの、病状の悪化に伴い車いすで生活をすることになった方です。
1階は駐車場で生活の中心が2階になっており、移動に負荷がかかるためリフォームを決断しました。
はじめは1階中心の生活をするためにリフォームをする予定でしたが、水回りを含め全ての設備を1階にそろえるより、エレベーターを設置する方が、費用が安くなるため、ホームエレベーター導入のプランに切り替えました。
道路⇔駐車場⇔1階エレベーター前までを外構スロープ、1階⇔2階玄関までをエレベーターでつなぐことで、無理なく外出・帰宅ができるようになっています。
関連リンク
https://tri-angle-rehome.com/archives/2100